【登場人物】
先生(先)=まちの財布について何でも知っている
市民(市)=会社員。今度の議員選挙に立候補を予定
記者(記)=今度、行政担当に指名されている
地方交付税に「政策誘導機能」も
先 前回までで地方交付税についての話は一通り終わったんだけど、補足したいことがあるから先にここで話しておこう。
記 はい。
先 まずこの記事を読んでみて。2002年7月22日付朝日新聞朝刊の記事。
先 この中にこんな風に書いてある。
公共事業の膨張の温床になったのは、地方交付税制度と、国の補助金だ。とくに、国が景気対策として地方債のかなりの部分を交付税で補填(ほてん)する仕組みを導入したため、自治体は「どれだけ国から予算を引っ張ってこられるか」を競い合い、モラルハザード(倫理の低下)がひどくなった。これはいわば「交付税の補助金化」だ。
市 「交付税の補助金化」。
先 地方債っていろいろな種類があるけれど、借金を全部自治体が負うんじゃなく、一定割合を国が地方交付税で措置するものが多い(臨財債はそれが100%)。だから、国が「措置」してくれる割合を見ながら、自治体は借金をして事業を行う。
市 そりゃあ、できるだけ有利なものを選びますよね。
先 地方交付税の機能について「財源調整機能」「財源保障機能」があることについては説明した。もう一つ、国がしたいことを地方にやってもらうために地方交付税を利用するという意味での「政策誘導機能」もあると指摘される。もちろん総務省は明示してはいないけれど。まあ上の例はそれでも「誘導」と言えるものだが、こういう例もある。2012年12月28日付朝日新聞朝刊の記事。
先 財務省と総務省の折衝で決まる人件費分の地方交付税を減らすことで、自治体に公務員給与を下げさせる、というようなやり方も、過去にはあった。
市 なるほど。使い道が自由だといっても、依存財源だとこういうこともありうるんですね。
財政力指数=基準財政収入額÷基準財政需要額
先 さあ今日の本題に入ろう。地方交付税に関連するものについてで、まずは財政力指数。
記 財政力?
先 「財政の豊かさ」ぐらいの意味。それを指数で表現したものが財政力指数。自治体を運営するのに必要な経費に対して、税収などの自前の収入がどれくらいあるかを示す数値のこと。
記 「必要な経費」「自前の収入」…あれ?
先 あっ、気づいた?
市 あっ、「基準財政需要額」と「基準財政収入額」。
先 そう! 財政力指数の計算式はこう。
財政力指数=基準財政収入額/基準財政需要額
一般にはこれの直近3年分の平均値を「財政力指数」としている。
市 具体的に見るとどうかな。
先 福井市の例でいこうか。まず、決算カードで場所を確認しておこう。
市 右の真ん中あたり。緑の部分にあります。
先 拡大するよ。
市 おお、財政力指数の近くに基準財政需要額と基準財政収入額も。
先 じゃあ計算してみよう。小数点は第3位を四捨五入。平成26年度までやってみるよ。
2017(平成29)年度 36,128,311/42,560,315=0.85
2016(平成28)年度 36,229,052/42,757,317=0.85
2015(平成27)年度 35,230,384/41,886,491=0.84
2014(平成26)年度 34,211,207/40,812,202=0.84
これで財政力指数を計算する。直近3年間の平均。
2017(平成29)年度 (0.85+0.85+0.84)/3=0.85
2016(平成28)年度 (0.85+0.84+0.84)/3=0.84
市 決算カードの数値もそうなってる。
記 計算の仕方は分かったんですが、数値自体をどう評価すればいいんですか?
先 数字の評価の仕方についてはずっと前にやったよね。
【基礎の基礎1】5/6 まちの財布を「考える」とはどうすること?
記 他の自治体と比べる、自分の過去と比べる。
先 そう。【基礎の基礎1】6/6では「絶対的な基準もある」という話もした。で、この財政力指数はとても大きな絶対的な基準がある。それは指数が「1.0を超える」か。
記 1.0を超えると? つまり基準財政需要額を基準財政収入額で賄って余りが出るということだから…
先 そう。普通交付税の不交付団体になる。前に不交付団体の話をしたけれど、正確には財政力指数、ただしこの場合3年間の平均ではなくて単年度の指数が1.0を超えると不交付団体になる。
市 ふーん。
臨財債の返済に影響も
記 実際のところ、財政力指数はどんな分布になっているんだろう。
先 2020年度版の地方財政白書にはこんなデータがある。これは2018年度決算のもの。
【自治体分類ごとの財政力指数(単純平均)=2018年度決算】
政令指定都市(20市) 財政力指数0.86
中核市(54市) 財政力指数0.80
施行時特例市(31市) 財政力指数0.88
中都市(人口10万人以上 155市) 財政力指数0.80
小都市(532市) 財政力指数0.56
町村(人口1万人以上 417町村) 財政力指数0.54
町村(人口1万人未満 509町村) 財政力指数0.28
記 なるほど。小さな自治体にとって地方交付税がいかに大事か分かりますね。
先 この2018年度の不交付団体は77市町村。都道府県では東京都だけ。この年の都道府県の財政力指数は最低が島根県の0.26024、最高が東京都の1.17884、単純平均が0.51754。
記 都道府県も結構バラツキがあるんですね。
先 そう。あと財政力指数については二つほど注意点がある。
一つ目。基準財政需要額の算定基準は毎年同じではない。地方交付税総額が決まったあと計算の仕方を毎年調整して、各自治体からの積み上げが総額に合うようにしている。
市 すごいことをやってるんですね。
先 だから、ある年度の財政力指数を他の自治体と比べるのはまあいいとしても、同じ自治体の財政力指数を経年的に見てもあまり意味がない。
市 なるほど、簡単に「改善」とか「悪化」とか言えないということですね。
先 うん。それから二つ目。臨財債との絡みで注意が必要。臨財債は地方交付税を交付する団体に発行可能額が割り当てられる。逆に言えば普通交付税の不交付団体には発行可能額が割り当てられない。
市 何か不都合があるんですか?
先 普通交付税の交付を受けていた自治体が、不交付団体になるとどうなるかな?
市 普通交付税の交付もなくなるし、臨財債の発行もできなくなる。ということは、前に臨財債で調達したお金を返すための手当が受けられなくなるということ?
先 2018年度から不交付団体になった愛知県武豊町の例を挙げておこう。
記 確かにずっと可能額の満額を発行していたのに、2018・19年度は発行なしですね。発行可能額の割り当てがないから当然だけど。地方交付税も来ないんだから…
先 でも毎年返済はやってくる。「後年度の地方交付税で100%措置」と言ってもこんなこともある、ということ。
記 なるほど。難しいものですねえ。