【登場人物】
先生(先)=まちの財布について何でも知っている
市民(市)=会社員。今度の議員選挙に立候補を予定
記者(記)=今度、行政担当に指名されている

本来は禁じ手の「赤字地方債」

先   さあ、じゃあ「臨時財政対策債」(臨財債)の問題点について、整理していくことにしようか。臨財債は、地方交付税と地方債、両方の性格を持っているから問題点もそこから考えることができる。

市   簡単なやつからお願いします。

先   うん。まず臨財債は国が地方交付税として配分するべきお金が足りないから、その分を地方が借金をして賄うという仕組みだよね。日常的な運営に必要な財源が足りなくてする借金だから「赤字地方債」とも言われる。そして臨財債発行で得たお金は「一般財源」。

市   何にでも使える、ということですね。

先   そう。そもそも地方税はインフラ整備に使うのが基本の「特定財源」。つまり、お金を借りて何か形になる資産が出来て、それを長期間使いながら、使う人たちが継続してそのお金を返していくというものだった。でも臨財債はそれに限らない。例えば人件費のようなものに使うこともありうる。借りたお金の返済は後まであるけれど、形には残らないこともある。

市   借りなければいいじゃないですか。

先   借りないという選択肢もある。実際、借りてよいとされる額(臨財債発行可能額)全額を借りる自治体と、一部しか借りない自治体、まったく借りない自治体がある。でも、最初に立ち戻って考えて。

記   「どこに住んでも標準的な行政サービスを受けられるよう」ですね。

先   そう。そのぐらいの行政をするために必要なお金が足りないとき、受け取れるはずのお金が地方交付税。その代替としての臨財債なんだから、借りないということは?

記   そのサービス水準を満たせない可能性があると。

先   東村山市の平成30年度決算版財政白書の「よくある質問」のところに臨財債に関するものがある。そこでこんな風に説明されている。ちょっと長いけど引用するよ。

 「(臨財債は)本来、地方交付税として地方に配分されるはずの財源不足額を、国税の税率や地方への配分割合を変えずに、地方債の発行により補塡しているもので、歳入に占める地方交付税の割合の大きい東村山市のような自治体にとっては、市民サービスに影響が出ないように、その活用が不可欠な状況となっています」

記   そりゃそうですよね。

先   だから、借りるのはある意味仕方ないとしても、きちんと返す、返せるようにすることが大事。で、その点で言うと問題は4つぐらいある。

市   4つも!

返済金の管理、きちんとしているか

先   1つ目。自治体によっては、後から手当てされた返済のためのものを、返済じゃないことに流用したケースがあった。次の2014年4月3日付朝日新聞の記事を見て。

市   なるほど。これはよくないですね。

先   最近だとNHKのこんな記事が詳しい。

市   この積立不足は全部、後で自治体の負担になるんですよね。

先   もちろん。だから「借金」としての厳重なチェックが必要。では次の問題に行こう。

市   はい。

先   2つめは、今のと似てるんだけど、返済に必要なお金と、実際に手当てされて来るお金とには時間的なズレがある。

市   はい?

先   借金の返し方にはいろんなやり方がある。一定期間後に一括して返したり、少しずつ均等に返したり。自治体ごとにその返し方が違ったりする。だけど、国から手当てされる時のお金は、一つのモデルに従ってお金が計算されてくる。だから、自治体によっては毎年必要な額より多くお金が手当てされる年があったり、少ない年があったりする。その自治体の返し方で、その年に必要な額以上が手当てされたとき…

市   やっぱり別のものに使ったり、ということですね。

先   そう。全体の期間で見れば、同じぐらいが手当てされるのだから、最初に多めにくればあとは少なく来る。だからきちんと返済用としてストックしておかなければならない。

市   もらう側としては誘惑が大きいですね。

返済の手当も借金で

先   3つ目。これまでは自治体側の管理の問題という側面が大きかったんだけど、これからはむしろ仕組みや国の政策の問題。

記   ふむ。

先   3時間目で、地方交付税の総額は国の予算編成と並行して予め決められるという話をした。

記   はい。

先   その時、決められた総額に合わせて基準財政需要額の算定の仕方を調整する、というようなことも説明した。

記   はい。それが何の関係があるんですか?

先   いくら「臨財債分は後年度、基準財政需要額として措置される」とは言っても、地方交付税全体としては政策変更など何かの事情によって減ることもあるということ。おカネに色はないから、他が減ってしまえば結局困るのは同じこと。

記   なるほど。色々なものが一緒に入っているから、それだけ「手当て」されると言っても手放しで喜んでられないんですね。

先   そう。そして4番目。今までずっと「返済用のお金が手当てされる」と言ってきたけど、実は返済用に手当てされるのはお金そのものではなくて、「その分をさらに臨財債で借りてもいいですよ」という形になっていること。

記   …サギだ。

先   実際2019年度・20年度は税収が好調だったから、地方交付税の財源不足を国と地方で半分ずつ負担する状況にはならなかった。つまりこの2年間は地方交付税の代替としての新しい臨財債発行はなかった。でも地財計画を見ると両方の年度とも3兆円を超える臨財債発行が織り込まれている。これは過去に発行した臨財債の元利返済分として借りていいよ、という分。もちろん実際に臨財債を発行してそのお金で返すのかどうかは、個別自治体の判断になるけど。

市   じゃあ、ずっと借り換えが続く、ということですか?

先   制度全体としてはね。「国が100%手当してくれる」という建前だから、他の借金よりも条件がいい。必然的に地方債残高全体の中での臨財債の割合が増えていく。2020年度の地方財政白書に載っているグラフを見て。

市   残高の総額自体は横ばいですね。

記   臨財債残高が増えていく分、他の地方債が減っているっていう感じ。

先   そしてその臨財債返済のための財源は決まっていない。

市   これ、どうなるんですか?

先   それは借金全体のことに絡むから、別のシリーズで考えていこう。とにかくここでは、臨財債は地方交付税の代替だけれど、チェックはあくまで地方債の目線で行うべきだ、ということを理解しておいて。

市   はい。「100%国が後年度に手当」という言葉で安心しないということですね。

先   そう。では次回からは、この地方交付税制度に関係して出てくる指標などについて説明していこう。

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