【登場人物】
先生(先)=まちの財布について何でも知っている
市民(市)=会社員。今度の議員選挙に立候補を予定
記者(記)=今度、行政担当に指名されている

前年12月に「地方財政計画」

先   今回と次回で、毎年の地方交付税(普通交付税と特別交付税)がどのように決まっていくのかを説明するよ。

市   はい。

先   地方交付税は大きく2段階のプロセスを経て配分されていく。最初にマクロ、つまり総額の決定。次にミクロ、個別自治体への配分。時系列的にもこの流れで進むよ。実際の流れを見ておこうか。

市   お願いします。

先   まず前の年度の8月から12月にかけて、国の予算編成と並行して地方全体の歳入と歳出総額見込みが国で作成される。それを「地方財政計画」(地財計画)と言う。この中で、翌年度の地方交付税総額が決まる。

市   前の年の12月。

先   で翌年の3月、それを踏まえて毎年地方交付税法が国会で改正される。そして4月から7月ごろまで各自治体から実際に調査をして8月末までに普通交付税の本当の配分額が決まる。配分額の決め方は後で詳しく説明するから。

普通交付税は年4回、11月までに交付

記   それでいつ自治体に配られるんですか?

先   4月・6月・9月・11月の4回。正式に決まるまで配れないと大変だから、4月と6月は前年度の額に基づいて配って、後の2回で調整する。

記   11月以降は?

先   そこで登場するのが特別交付税。総額の96%が普通交付税で、残りの4%が特別交付税。これは普通交付税の調査後に引き続き調査され、12月と3月に額が決定されて同時に交付される。

市   なるほど、よく分かりました。

記   地方交付税って総額いくらぐらいなんですか?

先   ここ最近は年間16から17兆円ぐらいかな。これを配分していく。

記   この総額ってどうやって決まるんですか。

一般財源総額の水準維持、ルールに

先   これ、財務省と総務省の折衝で決められるんだけど、考慮されているのが「地方一般財源総額実質同水準ルール」。つまり、自治体が自由に使える「一般財源」の総額を、前の年度と実質的に同水準になるようにする、ということ。2011年度(平成23年度)からこのルールに従っているそうだけど。

記   一般財源を減らさない、ということですね。

先   実際、この令和2年度地方財政白書の歳入内訳グラフを見ると、一般財源は63兆円前後で同じぐらいの水準を維持している。

記   地方税が伸びていますね。

先   一般財源のほとんどは地方税と地方交付税。地方税が伸びて、「地方一般財源総額実質同水準ルール」があるんだから…

記   地方交付税は少しずつ減る、と。

先   そう。地方交付税の総額は、こんな感じで他の財源の見通しを見ながら決められていく。ところで、このグラフをちょっと見て。

先   これは地方財政計画上の主な歳出項目を1970年度から2020年度までグラフにしてみたもの。一見して分かるのは?

市   一般行政経費だけが右肩上がり。

先   これは社会保障関係の経費が増え続けているから。でその増え続ける部分をどこで賄っているのかというと、グラフを見ての通り、人件費や投資的経費を抑えることで賄ってきた。

市   なるほど。

先   全体のパイが変わらないならこうせざるをえない。でも一般行政経費は増え続けるし、老朽化したインフラの手当もこれから必要になる。国の財布が厳しい中、地方の一般財源を減らさせないという点では「総額同水準ルール」は意味があった。けれど地方に必要な経費をきちんと見積もって手当てするのが本来の姿だということは覚えておこう。

市   分かりました。

普通交付税=基準財政需要額-基準財政収入額

記   その総額から各自治体への配分額はどうやって決められるんですか?

先   96%を占める普通交付税について考えてみる。ここで出てくるのが地方交付税の基本的な考え方。

記   えっと…「地方交付税は①本来は地方税であるものを②自治体間の財源の不均衡を調整(財源調整機能)し③どこに住んでも標準的な行政サービスを受けられるようにする(財源保障機能)ために④国が地方に代わって徴収して、ある基準によって再配分するーーもの」。これですね。

先   はい。まずは②自治体間の財源の不均衡を調整(財源調整機能)に注目。これの言わんとすることは何だろう?

記   財源が少ないところには多く、財源が多いところには少なく配分する。

先   まあそう。そのためには基準が必要、と。それが③どこに住んでも標準的な行政サービスを受けられるようにする(財源保障機能)。

記   抽象的でよく分かりません。

先   ざっくり説明するよ。国が「標準的な行政サービス」の一応の基準を決め、計算の仕方を指定する。それにいくらかかるかをそれぞれの自治体が計算する。例えば人口が多ければそれだけ多くお金が必要になる。

市   その分を配る、と。

先   いやいや。もう一つ、自分のところの財源も見積もって、それとの差引で財源の足りない自治体に、足りない分だけ配る。

市   なるほど。財源調整機能だもんね。各自治体の財源の計算も必要なんだ。

先   そう。で、そのさっきの「標準的な行政サービス」を実現できるために必要な金額のことを「基準財政需要額」といいます。そして、自治体がもっている財源のことを「基準財政収入額」という。普通交付税の配分額は、この需要額と収入額の差額分。図にするとこんな感じ。

市   おっと。難しくなってきたな。

先   この続きは次回ね。

「3/7 財源不足分を計算して交付」へ→

←「1/7 まちの財布理解への最大のヤマ」に戻る