【登場人物】
先生(先)=まちの財布について何でも知っている
市民(市)=会社員。今度の議員選挙に立候補を予定
記者(記)=今度、行政担当に指名されている

「留保財源」で独自性確保

先   前回に続き、地方交付税の中の「普通交付税」を、どのようにして国が地方に配分するか、を説明します。前回はこの図まで行った。

先   これまでのあらすじを振り返っておこう。地方交付税(普通交付税+特別交付税)の総額は、国の予算編成と並行して決められる。その総額を各自治体に配分するためのやり方がこの図。

記   必要な額(基準財政需要額)と自分たちで得られる額(基準財政収入額)を計算して、その差額を配分する、と。だけどこれでは自治体は「標準的な行政サービス」程度しかできない、ってことですか? これだけで財源がなくなるんでしょ?

先   おお、いい質問が出た。その問題は基準財政収入額の計算の時に工夫されている。自治体が普通の状態で集められるお金を「標準税収入額」というんだけど、基準財政収入額は、この標準税収入額の75%、4分の3になっている。残りの25%、4分の1は「留保財源」といって自治体にまかせるという考え方。

記   つまり、さっきの図はこういう感じですか? この分で独自のこともできる、と。

先   そういうこと。基準財政収入額は、本当は標準税収入額の75%以外にももう少し細かくあるんだけど。そこまではとりあえずはいいから。

配分されない「不交付団体」もある

市   すっごい豊かなところはどうなるのかな。

先   おお、これもいい質問。ほとんどの自治体は「基準財政需要額>基準財政収入額」で、普通交付税の配分を受けている。でもまれに、基準財政収入額の方が需要額を上回っているところがある。すると差額は?

市   需要額ー収入額だから…マイナスだ! じゃあ、逆に国にお金を入れる?

先   いやいや。このような自治体は財源不足ではなく財源超過なんだから普通交付税はゼロ。つまり配分されない。そのような自治体のことを「(普通交付税の)不交付団体」と言います。

市   この言葉、聞いたことあるぞ。

先   2019年度で言うと、不交付団体は都道府県では東京都だけ。市町村では86団体となっているよ。市町村は1700ぐらいだから…

市   少なっ。10分の1以下ですね。

先   うん。そういうところは、留保財源以上に余裕があるからいろんなことが独自にできる。うらやましいよね? ところで、一つだけ注意。地方交付税は一般財源?特定財源?

記   「本来は地方税」という考え方だったから、自由に使える「一般財源」です。

先   そう。だから、さっきの「標準的な行政サービス」も、あくまで普通交付税を算定するためにある基準で、その金額をその目的に使う義務があるわけではない。

記   あっ、そうか。全部自由に使えるんですものね。

先   使い道を決めるのはまちの中の人。使い道が決まっている国庫支出金とはそこが違う。忘れないように。

記   逆に財政的にすごい苦しい自治体はどうなるんだろう。

先   図で示すとこんな感じになる。

記   留保財源といってもほとんどないですね。

先   うん。留保財源も、もちろん不交付団体の財源超過部分も、自治体間の格差をそのまま示すもの。さらにもう一つ。前回「地方一般財源総額実質同水準ルール」を説明した。地方財政計画上の「一般財源総額」には、これまで説明した留保財源も不交付団体の財源超過部分も入ってる。

記   ということは?

先   留保財源や財源超過部分が大きくなれば、それだけ地方交付税の総額が小さくなるということ。そうなると地方交付税の持つ再配分の効果が小さくなってしまう。自治体の個別の努力を促すことはもちろん大切。でも地理的・歴史的にできてきた自治体間の格差も放置しちゃいけない。

記   なるほど。両方を見なければいけないんですね。

市   先生、ちょっと質問が。

先   ん?

市   地方交付税の財源って何なんですか?

先   基本は国の税金の一部。所得税とか法人税とかの一定割合。

市   なるほど。でも、税収って年によって増減するんですよね。税収が必要な額を賄えなかったらどうするんですか?

先   今日はみんな、何かすごい質問を連発しているねえ。じゃあ、次回はその疑問に答えることにしよう。ここでやるとあと1時間はかかるから。

市   1時間。。はい次回でお願いしまーす。

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