【登場人物】
先生(先)=まちの財布について何でも知っている
市民(市)=会社員。今度の議員選挙に立候補を予定
記者(記)=今度、行政担当に指名されている

使い勝手のいい財政調整基金

先   基礎の基礎2もこれで最後だ。では貯金と借金はどこにあるかな?

市   右下の灰色のところです。

先   はい。小さいけれど、とても大事。貯金と借金は、前にも何度か出てきたよね。

市   貯金はおカネが足りないときに取り崩せる。確か「財政調整基金」とか。

先   決算カードでは「積立金現在高」というくくりが貯金の情報。そしてその一番上にある「財調」が「財政調整基金」のこと。自治体の貯金の中でも最も使い勝手が良く使い道の制限がない。他に借金を計画的に返すために積み立てておく「減債基金」とかがある。他にも基金は、自治体ごとにいろいろ作れる。

市   特別会計みたい。

先   そう。それらは一定の目的を決めてお金をプールするから「特定目的基金」という。

市   もうそれしか使えない?

先   一定の制約はあるけれど、絶対に他に回せないわけではない。ただ、特定目的基金に対して借金をしたことになるから、後で返さなければならない。

市   なるほど。

記   ところで財調って便利なお金ですけど、どのぐらいもつべきものなんですか?

先   それ、知りたくなるよね。当然。

市   はい。

先   ちょっと遠回りすることになるけど、いい?

市   はい?

先   一般に、自治体側は、財調の額って、「標準財政規模の10%」以上を目安にしている。これは決まりじゃなくて、各財政当局が意識している数字、ってこと。

市   標準財政規模。

先   教科書的に言うと、各自治体ごと各年度ごとに算出される「標準的な状態で通常収入されると見込まれる経常的一般財源の規模」のこと。簡単に言うと、自治体の普通の状態を仮定して、そこで見込まれる「毎年きちんと入ってくる自由に使えるお金」の規模のこと。前から大事だって言っている「経常」「一般」財源の理論値が基準になっているの。これ、とても大事だからいずれ詳しく説明するけど、ここで先に進むともう訳が分からなくなるから今日はここまで。

市   は、はい。これって決算カードにあるんですか?

先   貯金と借金の上、指標類のところを見てごらん。

記   平成29年度の福井市で586億円ですね。それの10%だから…60億円ぐらいか。

先   財調の残高、実際にはどうなっているかな。

記   平成29年度は「ー」だからないってことだな。平成28年でも20億円か。

先   福井市の平成29年度は、異例の赤字決算だった。これ、県庁所在都市としては、2009年度(平成21年度)の京都市以来のこと。これ、見ての通り、財調を全額取り崩しても赤字を避けることができなかった。

記   なんでこんなことになったんですか?

先   平成29年度の最後、平成30年になってから福井を襲った大雪で、除雪費が大幅にかさんでしまった。年度の終わりだから、他の経費を削減するとかもできないし。でもそれだけじゃない。これを見て。

記   この10年以上、4~5%ですね。

先   まあ大きな都市なら5%程度はそんなに少ないという訳ではない。ただ、めったにないことだったけど、災害などに襲われると対応できなくなる。本当は2015年から2016年にかけて1%も落ちたとき、注意喚起できたらとは思うけど。

記   他の県庁所在都市はどうなんですか?

先   いい質問。県庁所在都市全体の平均だと5.5%ぐらいかな。政令市のような大都市は一般に少なくて、代わりに中核市とか、それより小さいところは10%以上になっているところも多い。2017年度でいうと、8%以上の残高があるところが20市ある。さらに言うと、2005年より2017年の方が残高が少ないのは福井市を含め10市。そのうち2005年水準を2017年までに一度も超えたことがないのは福井市と新潟市の2市だけ。

記   中期的には何があったんですか?

先   例えば福井市は2022年度末に新幹線が来ることで大規模な駅前再開発をしたり、2018年国体のためにかなりの支出を続けてきた。それで財政の体力を少しずつ損なっていた。こういうのはそれぞれの自治体の事情を詳しく見ていかないと分からない。

記   なるほど。

先   なお、財政調整基金は、目標とする額を目指して予め予算で決めて積み立てることもあれば、ある年度の決算の黒字分の一部を翌年度に積み立てるケースもある。

    いずれにせよ、基金、特に財政調整基金の残高の動きは、その自治体の現状を知るためにとても大事。これが急に減ったり、低空飛行を続けていると、いつ突発的な災害などで赤字になってもおかしくなくなる。注意してウォッチしよう。

    借金=地方債については、これまで説明した通り、インフラ整備に充てるのが原則で、歳入が足りなくなったから慌てて借り入れるといったようなことは想定されていない。だから、自治体財政が急変する時のアラームとしてはあまり役には立たない。ただ、借金はきちんとコントロールしないと困るからいろいろ知らなければならないこともある。これは次のシリーズ以降に説明するね。

市・記 はい。

先   次のシリーズは地方交付税。がんばっていこう!

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