【登場人物】
先生(先)=まちの財布について何でも知っている
市民(市)=会社員。今度の議員選挙に立候補を予定
記者(記)=今度、行政担当に指名されている
数字だけでは良いのか悪いのか分からない
市 「まちの財布」から「まちの今」を考えようとする時、決算でのお金の入り(歳入)と出(歳出)、そのバランス(収支)を見なければならないことは分かりました。でも、数字だけではそれが何を意味するのか、良いのか悪いのか分かりません。
先 そう。何も分からない。
市 どうすればいいのですか?
先 中学高校の時を思い出そう。数学の点数が70点。良い?悪い?
市 判断できません。
先 どうすれば分かる?
市 クラス順位とか、平均点、偏差値とか。
先 そう。つまり「比べる」ということ。ではまちの財布の場合、何と比べる?
市 他のまちと、ですか?
先 その通り。でももう一つある。
市 えっと…
先 1年生、2年生、3年生。1学期、2学期、3学期。
市 あっ、過去と比べます。
まち同士と、過去の流れで、比べる
先 そう。「比べる」といったときに考えるのは、他のまちと比べることと、自分でも他でも過去からの時間の流れで比べること、この二つ。
記 でも、大都市と村を比べて意味があるんですか?
先 すばらしい! よく気付いた。赤ん坊と大人の身長を比べても意味がないのと同じ。だから、まちの財布を比べる時には「似た者同士」で比べる。そのために「類似団体」という区分けが用意されている。これは後で詳しく説明するよ。
記 なるほど。そうなんですね。
先 ところが、この話はそう簡単ではない。
記 えっ?
先 例えばこんな風に考えてみようか。中学のあるクラスでは5教科で成績を集計した。隣のクラスでは7教科で集計した。これを一緒に比べることは?
記 できません。
先 同じことが「まちの財布」にもある。
記 …意味が分かりません。
先 予算発表の時の記事を覚えてる?
記 …担当ではなかったので…
先 その時、見出しに「●●会計当初予算案」と出ているはずだけど。
市 それ、「一般会計」ですね。
先 うん一般会計。じゃあこれとセットになっているのは何会計かな。
市 「特別会計」です。
一般会計と特別会計
先 感心感心。普通、みんなが目にする予算決算はすべて「一般会計」と呼ばれるもの。議会で主に審議されるのもこの一般会計。
記 一般会計と特別会計って何が違うんですか?
先 最初に特別会計から説明するよ。例えば水道とか介護保険とか、税金ではない独立した収入で主に運営されているものがある。それについて独自の財布を作って管理するもの、それが特別会計。
記 なるほど、で一般会計は?
先 特別会計以外のものは全部まとめて一つの財布で扱う。それが一般会計。こちらが主で特別会計より規模も概ね大きい。
記 で、まちとまちを比較する上で何が難しいんですか?
先 特別会計は全国一律じゃないんだな。
市・記 へ?
先 水道とか介護保険とかはまあ、どこにもある。でも例えば鹿児島県指宿(いぶすき)市には「唐船峡(とうせんきょう)そうめん流し事業特別会計」といったものがある。
記 そうめん流し…
先 そうめん流しで有名な「唐船峡」の施設運営などの財布。このように特別会計は自治体ごとに自由に作れる。5教科と7教科という意味が分かったかな。
記 はあ。
先 これでは自治体同士を横に並べて比べることはできない。そこで比べるためのルールを国が用意した。それが「普通会計」。
普通会計と公営事業会計
記 「一般」、「特別」ときて、次が「普通」。
先 そう。混乱しないように。普通会計は自治体と自治体を比べられるように、一般会計と特別会計を一つのルールで整理し直したバーチャルなものだよ。大まかに言うと、一般会計に一部の特別会計を足し合わせた上で、重複するものを削るなど必要な調整をして計算する。
記 全部合わせるんじゃないんですか?
先 うん。入れないものもある。そしてそれら普通会計に入らなかったものは、今度は「公営事業会計」という名前でくくられている。いずれにせよ、普通会計という財布になって初めて、まちとまちを比べられる。これから決算の数字を眺めていくときに使われる数字は、だからすべて普通会計の数字。分かったかな。
市・記 はい。
【練習】普通会計・特別会計・一般会計・公営事業会計の4つの言葉を、二つのグループに分けて説明してみよう。まちの財布の分析に使われるのはどちらのグループだろうか。なぜそちらのグループの方が分析に適しているのだろうか。